『記号と再帰』を読んだ
2022/11/10
目次
本の概要
『記号と再帰』 (田中久美子) は記号論の概念をプログラミング言語に適用して記号の性質について考察する本です。
感想
記号論を通してプログラミング言語を見ることで、今まで自分の頭の中で整理されていなかったプログラミングパラダイムの違いや、型付ラムダ計算に備わっている再帰性、オブジェクト指向と抽象データ型が着目している部分の違いなどが分かってきました。
また、記号論での記号の分類や記号の構成要素をプログラミング言語に当てはめて議論を進めると確かに対応が取れていて、プログラミング言語には記号の本質的な性質が備わっているように見えてきます。
逆に自然言語やプログラミング言語、アートに記号論の概念を適用すると、どの表現のされ方でも同じ概念を発見することができ、それらの (例えば自然言語とプログラミング言語はどちらも指示子が恣意的であるという性質が一致するなどといった) 対応が取れているように見えて、記号論は記号一般の性質を解き明かしているのではないかと思い、読み進めていくと気持ちが高ぶってきます。
では同じような性質を持っているはずなのになぜ再帰を前にして自然言語は壊れないのに対してなぜプログラミング言語(コンピュータ)は壊れるのかという話が後半に書かれています。
自然言語系は再帰で進化していく構造的な系であるのに対して、情報記号系は小さな構成から大きな構成を作っていく構成的な系であり、停止性問題よりプログラマは再帰を書く際に停止するか考えなければいけない点で問題があるということです。
結局、記号の構成要素や記号の性質、記号の対象などは自然言語にもプログラミング言語にも適用ができ、それぞれの概念が対応しているように見えるけれど、系の再帰に関する差異にコンピュータの限界があるのだと分かって面白いです。
本の内容を人に説明しようとするとうまくまとまらなかったり言葉が出てこなかったりするのでまだ理解が浅そうです。 ラムダ計算や関数型言語 (Haskell) に入門してみて、その後もう一度読み返すと一層理解が深まるかと思いました。